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護衛艦「いずも」は空母なのか? 

散々言われすぎて今さらな話題ですが、敢えて思うところを書こうかと。
結論から言えば、「いずも」は護衛艦です。
空母でも軽空母でもヘリ空母でもありません。
そんなん詭弁だ。 見るからに空母だ。
…と思うかも知れませんが、冷静に考えてみるとそんな事はないのです。

大前提として、日本の法令上の「いずも」の艦種は護衛艦です。
これは海上自衛隊訓令第30号「海上自衛隊の使用する船舶の区分等及び名称等を付与する標準を定める訓令」に定められており、
大分類:警備艦 / 中分類:機動艦艇 / 種別:護衛艦
とされています。
しかし、日本国内の法令上の位置付けと国際的な位置付けが合致していない事が稀にあり、例えば日本海軍における「軍艦」の定義がそうでした。
日本海軍における軍艦は、戦艦や空母、巡洋艦など菊花紋章を頂いた一部の艦艇のみを指しましたが、国際法上の軍艦は「軍艦旗を掲げ、海軍士官の指揮下にある船舶」であり、駆逐艦だろうと潜水艦だろうと軍艦であるわけです。
ですから、いくら日本が「いずも」を護衛艦と呼んでも国際的には空母だ、という論が成り立ってしまうのです。
しかし、「軍艦」には国際法上の明確な定義が存在しましたが、「空母」はどうでしょうか?
「いずも」が空母かどうかを論じるには、そもそも空母とはなんぞや? という「定義」を決めなければなりません。

wikipediaでは「飛行甲板を持ち、航空機運用能力を持つ艦船のことを言う」とされています。
が、wikipediaは知っての通り閲覧者が自由に編集できるわけで、明確なソースがない限りは軍オタの妄想と思い込みでしかありません。
(ちなみに、護衛艦や補助艦のヘリ甲板も「飛行甲板」と呼称されているので、wikiの定義では汎用護衛艦も空母になってしまいますね。せめて「全通飛行甲板」くらいの記述にしないと。)

近代史上、初めて航空母艦に関する国際的な取り決めがなされたのは、1922年のワシントン軍縮条約です。
「航空機を搭載する目的を以って設計された基準排水量10,000tを超える軍艦をいう。航空母艦は艦上において航空機が発着できる構造を有す。」
と定義されます。
しかし、これでは航空機を搭載する小型艦が定義できないので、1930年のロンドン軍縮条約で
「排水量に関係なく、航空機を搭載する目的で設計され、艦上において航空機の発着可能な構造を有する一切の水上艦船をいう。」
と定義し直されました。

先のwikiとの明確な違いは、基準が「飛行甲板の有無」ではなく、「航空機を搭載する目的で設計されていること」です。
ですから、戦艦が観測気球を艦上で発着させても空母ではないし、例えば現在の汎用護衛艦に当てはめても空母にはなりません。
また、艦載ヘリを搭載する目的で設計されたDDHについても、
「主力艦、巡洋艦または駆逐艦に航空機の着艦用または離艦用の甲板を装備することは、航空母艦として設計されたか、または改造されたものではない限り、この艦船を航空母艦の艦種に算入または分類しない。」
とあるので、単艦で戦闘能力を有する水上艦たる「はるな」や「ひゅうが」は該当しないと見なせます。
個艦戦闘能力に欠ける「いずも」は、ややグレーゾーンでしょうか。
でも、安心してください。空母じゃないですよ。
ワシントン条約は1934年に破棄され、ロンドン条約からも1936年に脱退していますので、今さら両条約に拘束される言われはないのです。
そもそも両条約の規定に従うならば、基準排水量10,000tを超える「ひゅうが」は戦艦であり、同1,850tを超える「はるな」は巡洋艦に類別しなければなりません。
と言うか、基準排水量2050tの小型護衛艦まで巡洋艦になってしまいますね。
これでは実態に即していません。
現代の艦種類別にワシントン条約を持ってくるのはナンセンスです。

この他に空母に関して定義しているのが、1936年のモントルー条約です。
黒海と地中海を結ぶボスポラス・ダーダネルス海峡(トルコ海峡)の通航制限について定めた同条約では、
「洋上において航空機を搭載及び運用することを第一の目的として、設計または転用されたもの。」
とされています。
同条約は、我が国も海峡委員会の一員(当時)として締結しており、現在も効力があります。
サンフランシスコ平和条約で、モントルー条約により享受する権利・権益は放棄しましたが、条約自体は破棄されていません。

さて、この条約を語る上で欠かせないのが、ロシア海軍の「アドミラル・クズネツォフ」です。
全通飛行甲板と格納庫を有し、固定翼戦闘機を運用しながらも「重航空巡洋艦」を名乗っている同艦は、モントルー条約で空母のトルコ海峡通航が禁止されていることへの政治的配慮の産物であるかのように語られます。
しかし、いくらロシア海軍が巡洋艦に類別しようとも、トルコ側が厳正に対処できるように定められたのが条約であるわけで、条約批准国が通航を認めている以上、国際的にも「クズネツォフ」が空母ではないことが了解されていることになります。
何故でしょうか。
この条約における空母の判断基準が、「航空機の運用を第一の目的にしていること」だからです。
「クズネツォフ」は、大型巡航ミサイル「グラニート」の運用を第一の目的としており、艦載機の任務は防空ないし哨戒というパッシブなものです。
この条約の定義に照らす限り、トルコ側も航空母艦とは断言できなかったのでしょう。
従って、同型艦でありながら大型巡航ミサイルを搭載しない中国の「遼寧」は、航空母艦に類別されます。
このように見ていくと、我が国の「ひゅうが」と「いずも」にも同じことが言えそうです。
すなわち、対潜戦と僚艦防空を主務とする「ひゅうが」は空母ではないが、艦載ヘリの運用を第一義とする「いずも」は空母である、と。
よって、「いずも」は広義には空母と呼んで差し支えないでしょう。

あれ、冒頭と結論変わってるじゃねーか!!
まぁ、厳密に言うと、モントルー条約は全世界共通の取り決めではないので、あくまで拘束されるのは締結国のみです。
なので、「いずも」は、状況により空母と見なすこともできる護衛艦なのだろうと思います。
結局、言ったもん勝ちなところがあって、ネットで強襲揚陸艦と呼ばれるフランスの「ミストラル」も、フランス内での類別は「戦力投射艦」で、ロシアに輸出する時は「空母」でした。
アメリカの「沿海域戦闘艦」も、ジェーン年鑑では「コルベット」ですし。
防衛省がヘリ搭載護衛艦って呼ぶんだから、ヘリ搭載護衛艦なのです。
よその国が空母だというなら、よその国にとっては空母なのです。
肝心なのは運用の本質であって、空母と呼ぶかどうかで議論すること自体、ナンセンスだと私は思います。
だから、「いずも」にF-35が載るかどうかなんて話も、それこそ馬鹿な話だと思います。
重要なのは何のために載せるか、載せて何をさせるかなのであって、全長だけ比較してイタリア空母「カブール」と一緒だとか米強襲揚陸艦に匹敵するとか言っても不毛でしょう。
海上自衛隊のドクトリンは、対潜戦を軸とした海上交通路保護であって、それは昔も今も変わらないのです。
必要なのは、対潜中枢艦としてのDDHであり、それ以上でも以下でもありません。

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[2016.02.21(Sun) 23:30] 自衛艦の話Trackback(0) | Comments(2)
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COMMENT

結局 by メバル所長
呼んだもん勝ちでしょうかね、個人的には軽空母だと思いますが。
空母は、海上自衛隊創立以来の悲願と本で読んでいます。

海上自衛隊の夢は
輸送艦「おおすみ」型から、護衛艦「ひゅうが」型、そして護衛艦「いずも」型へ。
周辺諸国の目を徐々に慣らして来て、一応の完成型が「いずも」。「おおすみ」型の時も、空母か?って散々騒がれましたね。最初から「いずも」建造したらどえらい大騒ぎになったでしょう。やるな、海上自衛隊!(飽くまで、個人の感想です)
次のステップは、多機能艦艇でF35Bの運用開始と行きたいですね。島嶼奪回には制空権が必要、という理由付けで、如何でしょうか。
これで慣らしておいて、「いずも」型を改修してジャンプ台の設置、F35Bの運用へと
今までは、シーレーンの主たる脅威は潜水艦でしたが、お隣の国が南沙諸島に空港を建設し、空母を何隻も持つとなれば、潜水艦および航空機が主たる脅威となる。イージスだけで良いのか・・・漫画の読み過ぎかもしれませんね。/(^o^)

なんだかんだ私の中でも消化しきれていない気がします(笑) by 大和甲型
F−35についての記述は、本質を無視して他国艦艇と外観だけを比較し、その存在が国際問題であるかのように騒ぐ向きに対して馬鹿な話と言ったもので、個人的な趣味を否定する意図はありません。
むしろ「いずも」にF−35載せたら絶対カッコ良いですよね!!
軍事的整合性をかなぐり捨てて海自空母を夢想するのは、おそらく艦艇好きなら誰もがやったことと思います。
私も16DDGとか作ってましたし(笑)
実は、今も架空艦用に「ひゅうが」艦橋を1セット確保していたりするんですが、どう使うかはまだ未定です。

海自が空母を欲しがっていたのは事実ですが、その求めるところは時代によって様々です。
古くは固定翼哨戒機を運用する対潜空母であり、対潜ヘリ戦術が確立されてからは大量のヘリを搭載するヘリ空母になり、冷戦末期には太平洋へ進出したソ連長距離爆撃機から船団を護衛するためのVTOL空母が要求されました。
これらを一纏めに「空母」としてしまうと、本質が見えないまま「空母が悲願」という言葉だけが一人歩きしてしまうのだと思います。
ちなみに、対潜空母は大型陸上機の大量配備で、ヘリ空母はDDHとして、船団防空はイージス艦として、それぞれ代替装備が整備されてきました。
もし、現在の海上自衛隊が空母を求めるとすれば、離島防衛における近接航空支援が最たる目的になると考えられますが、それは多機能輸送艦への攻撃ヘリ搭載という形で実現が急がれています。
将来的に固定翼艦載機を導入する可能性は、誰にも否定できないでしょう。

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COMMENT

呼んだもん勝ちでしょうかね、個人的には軽空母だと思いますが。
空母は、海上自衛隊創立以来の悲願と本で読んでいます。

海上自衛隊の夢は
輸送艦「おおすみ」型から、護衛艦「ひゅうが」型、そして護衛艦「いずも」型へ。
周辺諸国の目を徐々に慣らして来て、一応の完成型が「いずも」。「おおすみ」型の時も、空母か?って散々騒がれましたね。最初から「いずも」建造したらどえらい大騒ぎになったでしょう。やるな、海上自衛隊!(飽くまで、個人の感想です)
次のステップは、多機能艦艇でF35Bの運用開始と行きたいですね。島嶼奪回には制空権が必要、という理由付けで、如何でしょうか。
これで慣らしておいて、「いずも」型を改修してジャンプ台の設置、F35Bの運用へと
今までは、シーレーンの主たる脅威は潜水艦でしたが、お隣の国が南沙諸島に空港を建設し、空母を何隻も持つとなれば、潜水艦および航空機が主たる脅威となる。イージスだけで良いのか・・・漫画の読み過ぎかもしれませんね。/(^o^)
[ 2016.02.22(Mon) 15:47] URL | メバル所長 #- | EDIT |

F−35についての記述は、本質を無視して他国艦艇と外観だけを比較し、その存在が国際問題であるかのように騒ぐ向きに対して馬鹿な話と言ったもので、個人的な趣味を否定する意図はありません。
むしろ「いずも」にF−35載せたら絶対カッコ良いですよね!!
軍事的整合性をかなぐり捨てて海自空母を夢想するのは、おそらく艦艇好きなら誰もがやったことと思います。
私も16DDGとか作ってましたし(笑)
実は、今も架空艦用に「ひゅうが」艦橋を1セット確保していたりするんですが、どう使うかはまだ未定です。

海自が空母を欲しがっていたのは事実ですが、その求めるところは時代によって様々です。
古くは固定翼哨戒機を運用する対潜空母であり、対潜ヘリ戦術が確立されてからは大量のヘリを搭載するヘリ空母になり、冷戦末期には太平洋へ進出したソ連長距離爆撃機から船団を護衛するためのVTOL空母が要求されました。
これらを一纏めに「空母」としてしまうと、本質が見えないまま「空母が悲願」という言葉だけが一人歩きしてしまうのだと思います。
ちなみに、対潜空母は大型陸上機の大量配備で、ヘリ空母はDDHとして、船団防空はイージス艦として、それぞれ代替装備が整備されてきました。
もし、現在の海上自衛隊が空母を求めるとすれば、離島防衛における近接航空支援が最たる目的になると考えられますが、それは多機能輸送艦への攻撃ヘリ搭載という形で実現が急がれています。
将来的に固定翼艦載機を導入する可能性は、誰にも否定できないでしょう。
[ 2016.02.22(Mon) 19:01] URL | 大和甲型 #NKwY6NnY | EDIT |

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